開かれた魔法

本は開かれている。時を超えて、国を超えて。自分の枠を超えてどこまでも行ける気がする。そんな本の魅力にとりつかれた女子の書評ブログ。

くまちゃん

いつ失恋しても心が折れないように、この小説を選んだ。図書館の一角で角田光代著『くまちゃん』のあとがきを読んだとき、こんな小説を求めていたことに気がついた。「ふられることがいいことだとは思わないけれど、でも、旅を一回するようなことくらいのよ…

秘密の花園

大人の言うことが常に正しい訳ではないと悟ったのは中学のときだった。親、学校の先生、ニュースキャスター。そういう正しいことを教えてくれそうな人達だって間違えることがあるという事実に、私は少し悲しい気持ちになった。だが成人式を迎える頃には、「…

みかづき

東京には空がないと智恵子は言う。高村光太郎の智恵子抄の有名な一節である。確かに人工の光が散乱する都会の空に星は一つも見えない。でも私達には月がある。会社帰りにふと見上げた空に月があると、わけもなくほっとする。頑張っていれば誰かが見ていてく…

【自作詩】誰のおかげ

「誰のおかげ」冷蔵庫を開いて野菜が入っているのは、今朝の私が買い出しに行ったから。綺麗な食器でご飯を食べられるのは、昨日の私が食器を洗ったから。ありがとう、私。実家のベッドで気持ちよく眠れるのは、お母さんがシーツを洗濯してくれたから。あり…

永遠の詩01 金子みすゞ

金子みすゞの詩は、何気ない日常の景色に命を吹き込む。風の音、星の瞬き、煙突からの煙。その一つ一つが命を宿し、生き生きと輝きだしたとき、なんて愛しい景色だろうと心の底から思えてくる。自分が気づかないだけで、本当は私を取り巻く環境は温かみに満…

サラバ!

「愛している」と今まで何度口にしたことがあるだろうか。私は日本語だと記憶にないのでおそらく0回だが、英語では幾度となくi love you を伝えてきたと思う。友人へのメールの最後にlove from と綴るほど、愛はありふれた表現だ。なのに、「愛している」と…

沼地のある森を抜けて

あれは小学校の国語の授業のときのこと。物の目線で詩を書くというお題が与えられた中、床の視点で書いた同級生がいた。床はみんなに踏まれて可哀想という詩の内容よりも、私には、床を一個のものとして捉えていることが印象的だった。鉛筆や消しゴムは一個…

この世で一番美しい食べ物は鮨だと思う。宝石のように鮮やかな色形。まるで芸術作品のような佇まいでありながら、生命の躍動感がぎゅっとつまっている。口に入れると自然の恵みと職人技が絡み合って、ほどよく口の中で溶けていく。私は今生命をいただいてい…

TUGUMI

吉本ばななのみずみずしい文体が紡ぎ出す物語は、荒井由美時代のユーミンの世界観を彷彿とさせる。そう感じるのは私だけだろうか。どこか懐かしくて、切なくて、甘酸っぱくて、やさしい。まっすぐで、儚くて、セピア色に溶ける景色。10代の頃心に流れていた…

炎上する君

人生という旅路の途中でつまずくタイプの人間は、ある意味真面目過ぎるのだと思う。 社会の暗黙のルールに疑問を持ったとしても、答えの得られない疑問は素通りして、自分が疑問を持ったことさえ忘れて生活できる人もいる。その一方で、まるで心の港にいかり…